肺がんについて
近年日本では、部位別がん死亡数の男女合計で肺がんは第一位となっており、2016年には男性52,430名、女性21,408名が肺がんにて亡くなっています。人口の高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率を男女合計で見てみると、肺がんは2000年以降常に死亡率第一位のがんとなっています。
このようにがんの中でも予後が不良な肺がんですが、一方では、早期に発見され、適切な治療が行われることで、長期生存可能なことも知られています。例えば、2002年の全国肺癌登録症例のデータでは、早期に発見された肺がん(臨床病期IA期肺がん)の5年生存率は約80%でした。言い換えると、肺がんでも早期発見されれば80%程度の人は治癒すると言えます。結局、肺がんの死亡率が高い原因は、多くの肺がんが早期に発見されずに、進行してから発見されることによると考えられます。
胸部X線による肺がん検診について
日本では、無症状の肺がんを早期に発見するために全国の市町村で胸部X線(重喫煙者には喀痰細胞診も)による肺がん検診が提供されています。具体的には、40歳以上の男女全員に対する胸部X線検査と50歳以上で喫煙指数600以上の男女に対する喀痰細胞診となっています。尚、喫煙指数とは、一日の喫煙本数×喫煙年数から算出されます。胸部X線検査では、鎖骨や肋骨、あるいは心臓などと重なるような異常陰影は発見が困難なことが多く、また、陰影の大きさが小さい場合(例えば1cm以下など)も発見が困難になりがちです。欧米では、胸部X線による肺がん検診については、その有効性に懐疑的な意見が多く、実際にその有効性を調査した臨床研究においても、明確な有効性を示すには至りませんでした。
一方、胸部CTは、胸部X線では他と重なってしまうような陰影や大きさが小さい陰影でも比較的容易に発見可能です。実際に、胸部CTでは発見されるが、胸部X線では検出されない肺がんの多くが早期肺がんであることが知られています。
低線量胸部CT検査について
肺がんの早期発見には胸部X線検査より胸部CT検査の方が優れていることは間違いありませんが、X線検査に比較してCT検査の被ばく量が多いことが問題とされてきました。近年、肺がんの早期発見に必要なCT画像の質を担保したまま被ばく量を低減した低線量CT検査が実施可能になってきました。
胸部X線直接撮影 約0.03mSv
胸部CT検査 約6mSv
低線量胸部CT検査 約1mSv
尚、私たちは自然放射線からの被ばくを受けており、年間約2mSv程度と考えられています。また、飛行機に乗っても自然放射線からの被ばくを受け、例えば東京ニューヨーク間の搭乗にて約0.1mSv程度と考えられています。
低線量胸部CT検査による肺がん検診に関する海外の報告
近年、CTによる被ばく量を低減した胸部低線量CT検査が開発されたため、アメリカで胸部低線量CT検査による肺がん検診の有効性について臨床試験が実施されました。高喫煙者約53000人を半々として、一方に胸部低線量CT検査を、他方に胸部X線検査を実施したところ、胸部低線量CT検査を受けたグループの肺がん死亡率が約20%低いことが示されました。