夏風邪

エンテロウイルス感染症

“風邪”をひきやすいのは寒い時期が多いわけですが、一方、“夏風邪”という言葉もあります。“夏風邪”の代表選手はエンテロウイルス感染症です。エンテロウイルスは腸管で増殖するウイルスの総称で、当初はポリオウイルス群、エコーウイルス群、コクサッキーウイルスA群・B群、エンテロウイルス群に分類されていましたが、近年の遺伝子解析の結果、ヒトエンテロウイルスABCD4ウイルス種に再分類され、110以上のヒトエンテロウイルスが同定されています。一般的な感染経路は糞口感染あるいは飛沫感染によるヒト−ヒト感染で、夏季を中心に5月から10月ごろにかけて流行し、年毎に流行するウイルスの型が異なり、異なる型でも同じ症状をきたすことがあるので、症状からウイルス型を特定することは困難です。代表的な症状としては、発熱と上気道炎症状(咽頭痛、鼻汁、咳嗽など)のいわゆる“夏風邪”です。発熱と共に口腔粘膜に水疱性発疹を認める“ヘルパンギーナ”や、水疱性発疹が口腔粘膜の他に、手掌や足底にも認められる“手足口病”も小児にはよく認められます。その他には、細菌感染が証明されない髄膜炎を無菌性髄膜炎と呼称しますが、多くはウイルス感染で、エンテロウイルスが多く、次いでムンプスウイルス(おたふくかぜ)となっています。症状としては、発熱、頭痛、悪心嘔吐など(腹痛、下痢を認める事も、また小児の場合は発熱と不機嫌、嗜眠)を認めますが、多くの場合良好な経過をとり、治療法は主に対症療法となります。また、ポリオウイルスに対するワクチンはありますが、他のエンテロウイルスに対するワクチンは開発されていません。

夏型過敏性肺炎

抗原の反復吸入によって感作が成立し、細気管支から肺胞におけるアレルギー反応としての過敏性肺炎の発症という病態がありますが、我が国の主な過敏性肺炎は下表の通りです。

病名 原因抗原
夏型過敏性肺炎 家屋のトリコスポロン
住居関連過敏性肺炎 家屋の真菌(トリコスポロン以外)
鳥関連過敏性肺炎・鳥飼病 鳥糞、羽毛
農夫肺 牧草に含まれる増殖する好熱性放線菌
塗装工肺 塗料に含まれるイソシアネート
加湿器肺 加湿器に増殖する細菌・真菌
きのこ栽培者肺 きのこ胞子、栽培環境の細菌・真菌

夏型過敏性肺炎は、5月から10月に発症し、7月にピークを認め、発生地域としては沖縄県から北緯40度程度の秋田、岩手県の間で認められています。原因真菌のトリコスポロンは温度2528度、湿度80%の環境で急速に増殖し、湿った草木に繁殖しやすいため、梅雨時期の古い木造家屋の雨漏りで腐った天井、風呂場の木枠や床などに増殖し、夏期に咳嗽、喀痰、発熱、呼吸困難などで発症し、冬季には消失するのが一般的です。治療の基本は抗原回避のため、改築を含めた住環境の改善が必要となります。トリコスポロンが繁殖しやすい腐木、寝具、畳、カーペットは処分し、場合によっては転居が必要な事もあります。“夏風邪”と思っていたら、実は“夏型過敏性肺炎”でしたということもありますので、住環境に対する注意も必要です。

 

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